あらえびすブログ

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今日は、青森で公共から新聞社さんまでお集まり頂きハイブリットウルフアートの講演会

最近納得いかない亡くなり方で他界した、ハイブリットウルフブリーダーのジャイママさんと同じ方向性で、ハイブリットウルフを野生に返すのではなく、ハイブリットワイルドピープルを育てる為にも、今は、ハイブリットウルフと地道に害獣対策犬パトロールをする時期と、今をとらえ活動する、ハイブリットウルフ「i」ターンプロジェクトを立ち上げ、アラエビスの重要な活動のひとつにしている我々にとって、つい最近亡くなられた、ハイブリットウルフブリーダー ジャイママさんの意思を引き継ぐ事は、凄く重要な事です。

その意味で、今回の青森での講演会は、凄く重要なスタートになるでしょう。

今こそ、生涯芸術そのものを生きる時代です。

そのツールは、間違いなく野生と常問。

さてその常問野生の一つ、ハイブリットウルフについて、ジャイママさんの遺言にあたる文章を載せます。

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ウルフドッグFAQ/よくある質問


Q1:狼犬は危険ではないですか?
A1:
 まったく危険ではありませんといえば嘘になります。が、雑種も含め一般的な犬種に比べて特別危険度が高いということはないでしょう。その質問は、「イヌは危険ですか?」という質問と類似しています。実際に、人を噛む確率は、私の知る限り純粋犬種(FCI公認犬種)の犬と比べ、USKのハイブリッドウルフ・ハイブリッドウルフドッグのほうが低いと言えます。それは、まず第一に、大型犬ゆえの躾の厳しさを私も含め飼われる方が理解していることが多いということもあります。最強の使役犬といわれ、麻薬探知犬・警察犬・軍用犬・災害救助犬に活躍しているジャーマンシェパードでさえ、躾・訓練・関係づくりをしっかりできなければ、人身事故につながります。人への従順とものを拾ってくるというところに特化して作出・ブリーディングされてきたリトリーバー系の犬でさえ、同じことが起こります。それは、ピットブル、秋田犬、土佐犬などでは顕著かも知れません。
 チワワに10回噛まれても大したことにはならないかも知れませんが、狼犬やシェパードに一度本気で噛まれれば、大怪我につながる可能性もあります。小型犬を飼われる方は、そういう意識で躾を甘く考える傾向もありますが、狼犬に限らず、潜在能力の高い犬を飼うときは特に、躾と関係づくりを幼犬の頃からしっかりすることです。
 ただ、いろいろな方向で作られてきた犬によって、それぞれ性質・能力・大きさの違いがあるように、狼犬にも、やはり狼犬ならではの習性・気質の傾向がありますので、そこを押さえて教育を考える必要はあります。
 第二に、上のことにつながりますが、狼犬の血になっているオオカミは野生動物ですから、基本的に、生存していく上で合理的にできています。運動能力などの身体特性はもちろん、気質的にもそれは言えます。端折っていえば、無駄なことはしたくないし、している暇がない、というのがオオカミでしょう。社会化適期が通常の犬より早く短いというのも、同様の理由です。野生で生きていくための合理性というのは、無闇に争ったりするよりは、むしろ争いを事前に避ける方向なのです。ハウリング、マーキングというオオカミ由来の犬の性質もありますが、これもまた、事前に衝突を避けるための方法です。
 そういう野生のオオカミの合理性の中で、犬との差があるのは「群れの意識」でしょう。元々のオオカミは、群れで暮らす習性があるため、それが統率された群れであれば、むしろ身勝手な行動をとるメンバーはいません。そこが、ネコ科の動物と異なる部分です。犬は、その意識を長年の間に削ぎ落とされていますから、群れとして振る舞う意識は残っているものの、狼犬やオオカミよりは低いと言えます。ですから、狼犬の場合は特に、群れのα(リーダー)として、飼い主がしっかり統率しなければならない部分があります。ただ、その「しっかり」というのは、殴る蹴るではなく、一言でいえば「信頼と尊敬」です。それは、恐らくすべての犬に通じることではありますが、特に狼犬の場合はその部分が大事です。

補足1)オオカミを含め、ジャッカル、コヨーテ、キツネ、ディンゴなどのイヌ科の動物内での異種間の交配・交雑種を全般に、カニド・ハイブリッド(Canid hybrid)といいますが、その中の一つとして、オオカミ×イエイヌ交配・交雑を狼犬・ウルフハイブリッド・ウルフドッグなどと呼んでいます。FCIに認定された2犬種は日本でも公認犬種となりますが、北米・合衆国では、ソリ犬をして優秀なティンバーウルフ・ドッグやティンバーウルフ・ドッグ・シェパード、軍用犬・警備犬として開発されたアメリカン・ツンドラ・シェパード、ヨーロッパで有名なのは、イタリアで災害救助犬として能力を発揮しているルーポ・イタリアーノなど、幾つもの確立した犬種として狼犬が広く認知され、交雑種・雑種とは区別されています。通常、犬種というのはFCI公認種を呼ぶことが多いですが、狼犬をはじめとする希少種に関して、必ずしもFCI自体の認定基準がはっきりせず、仮に1頭の狼犬であっても、国によって犬種になったり雑種になったり定まりません。
 では、どうして狼犬がFCIその他の犬団体に受け入れられにくいかというと、それは、事実に反した迷信・偏見・先入観によるところも大きいでしょう。例えば、北米のアメリカン・ツンドラ・シェパードは、もともとアメリカン・ツンドラ・ウルフドッグという犬種でしたが、その名の「ウルフドッグ」という響きに過剰反応して強固な反対・否定派が現れれたため、その名の部分を「シェパード」に変えたという経緯もあるようです。実際は、アメリカン・ツンドラ・シェパードは、軍用犬・警護犬としても優秀で、現在では家庭犬としても立派に成立しています。同じように、狼犬であるにもかかわらず、「ウルフドッグ」の名をはずして呼ばれるようになったサラ・スピッツサモエドとオオカミの交配)という犬種もあります。「ウルフドッグ」の響きへの悪いイメージは、「ウルフ」から発しています。つまり、幾つもの童話や迷信に端を発するイメージです。この狼犬への偏見・先入観・迷信は主に北米経由で日本にも流布され、実際には、残念なことですが、オオカミや狼犬の実像を知らない人ほどこの犬種を声高に危険視・批難・攻撃する傾向があります。

補足2)日本に出回っているオオカミ犬関係の情報・評価のほとんどは、インターネットなどの情報を読むなどして、事実と無関係につくられた風説レベルのものです。それは、ネット情報・又聞きの大もとが不明瞭で事実関係が定かでないからでもあるでしょう。おかしな情報が流されると、その情報からさらにオオカミ犬のイメージが二次的・三次的に歪めてつくられ、あたかも事実だあるかのように流布されて、結果、特定の偏った情報が特にネット上ではストップレスに繁殖します。例えば有名な情報・質問ページにyahooの「知恵袋」がありますが、少なくとも狼犬に関しての情報は、甚だ信頼性に欠けます。ほとんど無知蒙昧なデマまがいの書き込みが「ベストアンサー」にもなっていますが、これは、ベストアンサーを選ぶ人そのものが狼犬とほとんど関わったことがなく、この犬の習性・性質を知らず選んでいるので、不可避なことではあるのでしょう。この手のフィクション情報への対処法は、偏見や先入観のスパイラルに呑み込まれず、とにかく事実本意に考えることです。この点において、実際に狼犬を飼われている方からの一次的情報は一定レベルで頼りになると思います。

Q2:しつけの基本は何ですか?
A2:
 上の「信頼と尊敬」をどうやって得ていくかが要となります。細かいしつけ論はいろいろありますし、最近では「誉めるしつけ」などという言い方が流行ってはいますが、基本は、愛情をもって、叱るべきときにしっかり叱り、誉めるべきときにきちんと誉めてやることでしょう。叱るも誉めるも、狼犬の察知能力・知能からすると大袈裟にやるのは仔犬のときだけで十分で、成犬になってからは穏やかに指示したり誉めたりするので十分です。犬もそうだと思いますが、別にオテをさせたりする必要はありません。飼い主がイニシャティブをとりながら、子供を育てるのと同様に愛情を持って叱り・誉める。そういうことだと思います。様々な技術論に関しては、ここでは述べきれませんが、昨今の日本の犬事情を見ていて思うことは、犬の行動を矯正するのではなく心をつくるほうに飼い主が意識をシフトしないと、狼犬の場合は特に扱いづらい面が出てくるかも知れません。
 訓練士をはじめ、比較的マニュアルチックに現在の日本で一般的な犬の扱いを覚えてきた犬のスペシャリストほど、じつはハイブリッドウルフは扱えない可能性も高いと思います。一般的な犬のマニュアルをそのままハイブリッドウルフに対して使っても、効果がないばかりか逆効果になることもあります。それは、オオカミの警戒心の強さ、自我の強さ、そして知能の高さが起因します。
 幾つか大事なことを言えば、まず感情的にならないこと。感情的になっても、その感情をそのまま行動にしないこと。そして、犬がどういう態度をとっても動揺せず、自分の意志を貫くこと。例えば、甘やかされてわがままに育った犬なら、すぐ牙を剥いて威嚇してくるでしょうし、実際に牙を使うこともあるかも知れません。それでこちらがいちいち動揺して怒ったり恐がったりすることで、「牙を使う」という手法を効果的な方法だとさらに学習してしまうケースがむしろ普通です。犬は、幼少のときから自分の最大の武器が牙であることを知っていますから、それをちらつかせたり実際に使って問題解決ができる、自分の意志が通る、あるいは効果があると学ばせることが一番よくないことです。
 私の場合は、牙を使って意志を通そうとする仔犬に対しては、「キャン!」と泣くまで押さえつけたりします。ただし冷静に。そして、牙を使っても何の解決にもならないということを学習させながら、牙を使う必要もないとうことを教えていきます。どちらも大事です。それに必要なことは、まず、しっかり愛情を持ってやること。そして、そのうえで冷静に自分の意志を他力で曲げないことです。
 例えば、散歩をしていて犬は右に行きたい、私は左という場合、犬が引っ張って行こうとすれば、私は右へは行きません。しかし、上のような教育で関係ができた犬であれば、チラリとこちらを見て右へ行きたそうな素振りをします。それで、諸々と相談して右へ曲がる場合もあるわけですね。強引に引っ張って右に曲がった犬は、引っ張ることで飼い主を「従わせた」と思いますし、後者は、願望を「許してもらった」と思います。これは、似ているようでまったく違います。当然のことのようにグングン引っ張って歩くか、喜んでルンルン歩くくか。簡単に言ってしまえば、その違いです。
 そしてまた、犬の原型であるオオカミの方法論を直接的・間接的に取り入れた関係づくりをおこなうことも、通常の犬に対してよりさらに必要でしょう。オオカミの遊びの方法や節度、教育の方法、そして愛情や親愛の情の表現など、それらを封印してしまうのではなく、むしろしっかりおこなってやったほうがいい場合が多いと思います。

Q3:はじめて犬を飼うのですが、狼犬は飼えますか?
A3:
 一概に言えません。犬のしつけに失敗し吠えないように声帯を切ったり、牙を削ったり、そのような飼い主さんでは、何十頭犬を飼ったことがあるといっても、私は狼犬をおすすめしません。シェパードもロットワイラーも勧めません。間違った犬との関係・教育・しつけを何十年おこなっても、むしろディメリットにしかなりません。一方、はじめて飼う犬に狼犬を選び、非常にいい関係で問題なく暮らしている飼い主さんも幾人もおられます。犬との関係づくり、教育・しつけというのは、必ずしも犬を飼った経験・頭数・年数で左右されるものではありません。飼う犬が何頭目であるかより、ご本人の犬のしつけに対する意識、あるいは暮らす環境、犬との関係づくりに割ける時間などが重要かと思います。
 また、狼犬とひとことで言っても、千差万別なので一律に論じられない面もあります。USKのハイブリッドウルフドッグであれば、上の条件が一定レベルで満たされれば問題はまず起こらないでしょうし、逆にハイブリッドウルフの場合は、犬のベテランあるいは訓練士の方に対してであっても、お断りする場合があります。上記、信頼と尊敬を伴ったリーダーシップからなる犬との関係をつくることは、犬に巧みな芸をさせることとは異なります。上述したように、単に行動・振る舞いを矯正することとも違います。犬が一番リラックスし、安心して暮らせる状態は、信頼し尊敬できるリーダーのもとで暮らす状態です。そのような状態をつくれれば、犬は吠えたり、噛みついたり、怯えたりという問題行動のほとんどを起こさず安定的に暮らしますし、こちらの意志の伝達方法・合図(声符・視符など)を決めることで、ほとんど従うようになります。またさらに、いざという時、状況を判断して飼い主の望むように動くようにもなります。ただ、五感や運動能力・頭脳の優れたオオカミの血を引く狼犬の場合、小手先のテクニックや誤魔化しは通用しない可能性が多分にあります。そこが狼犬の良さでもあるかも知れません。何百匹もの犬をしつけ・訓練しテクニックを磨いてきたはずの訓練士が狼犬の前に挫折する例があります。では、テクニックでないとすれば何なのか。端的に言えば、犬の心を育てるのは、飼い主の心です。意識と言ってもいいと思いますが、どういう意識でその犬と暮らし、どういう意識で躾け、訓練し、接するのか。そこにかかっていると言っても言い過ぎではないと思います。

Q4:オオカミとイヌの違いは何ですか?
A4:
 一言でいえば、すべての犬はオオカミ(=Canis lupus)です。生物学上は「亜種」という関係になります。亜種とは、例えば人なら、日本人とアメリカ人という違いで、オオカミという言い方は、ヒトという言い方に相当します。ですから、この質問は、「ヒトと日本人の違いは何ですか?」という質問と同じです。オオカミといっても、例えば北米でも幾種類かの亜種がいます。ヨーロッパにもユーラシアにも、それぞれ亜種が存在しますが、その中で、イエイヌというカテゴリーがあって、それを通常私たちは「イヌ」と呼んでいます。
 学術的には、Canis lupus(=タイリクオオカミ=オオカミ)で、その中に、いわゆるグレイウルフ=ティンバーウルフ、北極オオカミ、あるいは北海道に生息していたエゾオオカミ、本州のニホンオオカミ、そしてイエイヌなどが含まれます。
 視点を変えてラフにいえば、野生でずっとやって来たのがオオカミ、途中でヒトが飼っていろいろ目的・ニーズに合わせて品種改良して来たのがイヌだとすれば、狼犬とは、野生の血とイヌの血を合わせた動物ということになりますが、特に作業犬・使役犬のジャンルでは、オオカミの能力の高さが求められ、人為的に交配が行われることはよくあります。嗅覚の鋭敏さ、運動能力の高さのほか、脳の容量もイヌより3割ほど大きく、言語能力の点ではるかに優れているといわれています。北米カナダ、アラスカのソリ犬がそうですし、FCIに認定されている狼犬では、チェコスロバキアンウルフドッグ、サーロスウルフドッグがあります。どれも、イヌとして人為的に進化してきたために衰えた能力をオオカミの血で補おうという考えからで、二種の公認狼犬は、軍用犬・警察犬としてその能力を発揮しています。また、北海道では、人里周りのヒグマをコントロールするための「ベアドッグ」として狼犬が導入され、オンリーシュ、オフリーシュ両方の方法で追跡・パトロール・威圧行為から追い払いまで、しっかりした結果を出しています。これは、世界中の獣猟犬の作業性能を凌駕するものです。狼犬が、作業犬・使役犬として、どの犬種も持ち合わせていない高い能力を発揮することは、一部では立証されています。攻撃性ばかり高く制御できないような犬であったなら、警察犬やベアドッグに使えるはずもありません。能力が高く、自制心を持った犬、狼犬の可能性を示す事例だと思います。
 また一方、人為的でないオオカミとイヌとの交雑が各地でみられ、先年、「ブラックウルフには過去にイヌの血が入っている」という科学的な研究論文が遺伝子の立場から発表されました。ブラックウルフというのは、その名の通り黒いオオカミですが、すべての黒いオオカミがじつは狼犬だった、ということになります。イヌの血が入ったオオカミは、同胎の中で黒いのばかりではありませんから、カナダなどでは、もうほとんど純粋なオオカミは存在しないのではないか、と懸念する研究者もいます。イヌはオオカミの一種で判別は遺伝子的にもなかなか困難なので、野生のオオカミだと思って見てきた動物が、本当に純粋なオオカミかどうかも、わからないというのが現状です。

 では犬はそもそもいつどこでできたのか?という素朴な問題がありますが、これに関しては、現在なお科学的に立証段階にありません。1〜1万5先年ほど前に、東アジアのどこかでオオカミを飼い慣らして犬となったのではないかというのが、現代では有力な考えのようですが、その犬の原種も、その後ヒトと一緒に世界各地へ散らばりながら、途中でそのエリアのオオカミ、ジャッカル、コヨーテなどと交配・交雑がおこなわれたため、犬はそれぞれの地域・民族の中で、非常に多様な変化を見せたと考えられます

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5:USKのハイブリッドウルフは動物園のオオカミよりオオカミらしい気がするのですが?
A5:
 「オオカミらしい」というイメージを、どこの地域のオオカミを見て思っているかによります。上に書いたように、例えば、カナダのオオカミを純粋なオオカミだと思ってきた人からは、アラスカのオオカミは「ちょっと違うなあ」と感じられるでしょう。USKのウルフドッグはアラスカ産のオオカミの血を用いているので、アラスカのオオカミをオオカミだと思っている人からすると、カナダのオオカミよりオオカミらしいと思えることがあるかも知れませんし、USKの個体を見慣れている人は、カナダの野生のオオカミを見ると、狼犬に見えることがあるかも知れません。
 日本各地の動物園のオオカミとして展示されている個体の出どころが、じつは問題で、私見としては、純粋なオオカミではなく狼犬をオオカミとして展示してしまっている例が、結構あるように感じます。

Q6:ハイブリッドウルフの大きさはどれくらいですか?
A6:
 飼育の仕方にもよりますが、通常はオスの体高が80〜85?程度でしょう。体重はさらにその個体の運動量や食生活によりますが、概ね50?〜60?程度だと思います。体高でアイリッシュウルフハウンドをイメージしてもらうと、だいたい近いと思います。が、イヌに比べると手や足、頭骨、牙など、パーツパーツが大きく、頑丈にできています。また、大きさもさることながら、その筋肉はイヌのものと同じとは思えないほどパワフルで、同じ筋肉の量なら倍近く力・俊敏性を持っているのではないでしょうか。シカやクマを何度も解体した経験のある方は、「ハイブリッドウルフの筋肉はシカよりクマに酷似する」と表現しておられました。
 上写真の手前がメスのハイブリッドウルフドッグですが、ジャーマンシェパードゴールデンレトリバーなどとだいたい同じ体高・60?ちょっとです。写真奥が生後10ヵ月のハイブリッドウルフ(オス)ですが、体高・頭胴長ともに、すでに2〜3回りは大きい(1.5倍近く)ことが分かると思います。
 ハイブリッドウルフドッグのほうは、家庭犬として扱いやすくブリーディングをおこなってきたため、体格も比較的小さく、オスの体高でも70〜75?前後と考えてもらってかまいません。

Q7:部屋飼いできますか?
A7:
 仔犬の頃はもちろんできますが、ハイブリッドウルフの場合、生後半年で難しくなる飼い主さんが多いですし、私自身そう思います。不可能とまでは言えませんが、通常の環境、通常の感覚ならば、難しいかも知れません。例えば、普通の家ならば、天井にあるものを軽くジャンプしてくわえたりしますし、よほど教育が行き届いていないと、いろいろな不都合が出ると思います。ただ、譲渡先には、ごく普通に部屋でくつろがせたり、一緒のベッドで寝起きしている飼い主さんもいます。不可能と言えないのは実際にこのような事例があるからですが、この場合も日中は広い運動場で自由に走り回らせるという大前提があり、運動欲(心身ともに必要な運動量)の高いハイブリッドウルフを小型犬のように部屋飼いするのは、おすすめできません。

 ハイブリッドウルフドッグに関しては、通常の大型犬と同様に考えていいと思います。ただ、必要な運動量に関してはハイブリッドウルフに準じますので、運動場でフリーにできるか、もしくは自転車等を使ってギャロップとトロット半々くらいのジョギングをおこなうのが理想的ではあります。運動を十分にできない場合、慢性的にストレスがかかり躾や訓練に影響を及ぼすことも考えられますので、部屋飼いにせよ外飼いにせよ、そのあたりの生活環境には配慮が必要でしょう。

Q8:他の犬と一緒に飼えますか?
A8:
 はい。それはまったく問題ありません。むしろ、先住犬がしっかり教育できている場合には、先住犬が、様々なルールを教え込んでくれるのでメリットです。人から教えられ、先住犬からも同様に教えられれば、学習は早く、強固におこなわれると思います。ただ、一緒に遊ぶという意味において、先住犬のサイズはある程度関係してくるでしょう。サイズ的には、いわゆる大型犬が望ましいかも知れませんし、飼い方にもよりますが、基本的には必要な運動量の多い犬が適しています。

捕捉)※「〜できますか?」という可能性については、上述のように部屋で飼うことも他犬と一緒に飼うこともできますし、ドッグランへ行くのが好きな個体や、ときどきイヌのイベントに出かけている個体もありますので、かなり幅が広いと思います。しかし、それは、「どいう意識で、いかに接しながら、どう育てるか?」によるので、一概に「誰にもできます」と断言できることも少ないように感じます。適当にほったらかしておいて、自発的に飼い主の望むように育つ犬は、狼犬に限らず、いないと思います。逆に、育て方によっては、その犬のどのような潜在性が発揮されるかわかりませんし、その可能性としては、チェコスロバキアンやサーロース、あるいはベアドッグで紹介したように狼犬は幅が広く大きいと思います。

Q9:食事・おやつなどは犬と同じでいいですか?
A9:
 ハイブリッドウルフは、消化器官が短いらしく(測定したことがありませんが)、穀物を消化しづらいと思います。特に幼犬のときは、その傾向が大です。ですから、幼犬の頃から、USKではスーパーで普通に買える牛・豚・鶏などのほか、七面鳥・シカ・イノシシなどの生肉を与えています。一番いいのは、血抜きをしていないシカやイノシシの肉。それも、火を通してしまうとビタミンなどの栄養価が損なわれるので、寄生虫などに注意しながら生であげるのがいいと思います。
 とはいえ、スーパーの肉では栄養が偏るため、生後半年を過ぎたあたりから、少しずつ「穀物不使用」のドッグフードを混ぜてあげ、便の様子を見ながら最適なフード量を決めます。野菜に関しては、月に何度か、キャベツ、大根、カボチャなどを丸ごと与え、遊びながらかじって好きなだけ食べる感じです。
 おやつは豚の大腿骨、あばら等でいいですが、通常の犬のように長々とかじっていることは少なく、比較的すぐ噛み砕いて食べてしまうことが多いと思います。それで便は硬くなりますが、問題が起こったことはありません。また通常、鶏の骨は犬に与えてはいけないものの一つですが、少なくとナマであれば、鶏のどの部位も問題を起こしたことはありません。経験則ではありますが、、通常の犬よ胃酸・消化酵素が骨や肉に対しては強いように感じます。


Q10:なぜわざわざ狼犬なんかを作るのですか?
A10:
 単純です。私も含め狼犬を欲しいと思う方がいるからです。狼犬に関わらず、すべてのイヌがそういうことです。なぜオオカミを飼い慣らしてヒトは家畜のイヌなんか作ったのか? これもまた、同じ答えになります。イヌを欲しいと思うヒトがいたから。同様の問答は、「なぜフレンチブルドッグのような不細工な(ブサカワですが)イヌを作ったのか?」「なぜチワワみたいな弱くて小さなイヌを作ったのか?」全部、答えは同じです―――「それをヒトが望んだから」
 ヒトもいろいろですから、チワワを大嫌いな人もいれば、大好きな人もいる。フレンチも狼犬も同様です。

 問題は、狼犬が求められることと、その狼犬によって生ずる社会的な迷惑・危険性などのバランスです。およそものごとにはメリットとディメリットがあります。これだけ普及した自動車でさえ、メリットとともに事故や騒音、大気など自然環境へのインパクト(悪い影響)の点で、ディメリットが大きいものです。できるだけ環境破壊を抑え、交通事故で怪我をする人が少なくなるよう自動車メーカーが努力するのと同様、ブリーダーはイヌによる事故や悲しみを少なくする義務があります。
 過去において、日本でまだ狼犬が十分認知されず教育方法・飼育方法がわからなかった時代に、幾つか人身事故が起きた経緯があります。しかし、それをもって狼犬は廃絶すべしとする論は間違いでしょう。しつけのなっていないシェパードが人を噛んで怪我をさせたからといって、「シェパードは根絶すべし」とならないのと、あるいは、あるクルマが事故を起こしたからその車種を廃止しようとならないのと同様です。自動車メーカーもブリーダーも、事故が起こらないようにクルマ自体・イヌ自体づくりで最大限の努力をし、それとともに安全な運転技術なりしつけ方法なりを普及していく。そういう方向だと私は思います。
 実際は、世の中にはイヌが大嫌いな人も沢山います。嫌いなだけでなく、本当に苦手な人もいます。そういう人もいるということを私たちは十分意識した上で配慮してイヌを飼わなくてはいけませんし、イヌが嫌いな人も、イヌやイヌと暮らす人を目の敵のように批判的に思わず、お互いに折り合いを付けて暮らすのがいいと思います。私のいう「ヒトもいろいろ」とは、そういうことです。

 さて。
 よくある論は、何千年もかけて人が好むようにオオカミを遺伝的に改良して様々なイヌを作ってきたのに、今さらどうしてそこにオオカミの血を入れるんだ?という、狼犬に対する否定的な意見。こういう論の方は、残念ながら、オオカミのこともイヌのことも、勉強と思慮が不足して、理解が足りないと思います。サーロスとチェコで話したように、イヌの歴史というのは、ある意味、能力低下の歴史でもあります。人が好む動物に変えた結果、ある部分でヒトの好みに特化した生きものとなりつつ、ある部分では能力・健全性に脆弱性が生まれてしまったわけです。最も健康で合理的にできているイヌ科の動物は何かというと、それはオオカミだと思います。人間の中途半端な知識や価値観・好みではなく、絶対的な自然・野生という中で、自然淘汰・適者生存を果たしてきた動物だからです。オオカミは生き抜くための合理性、イヌは人の好みによって、それぞれ自然淘汰と人為淘汰を繰り返してきた生きものです。
 ところが、人の好みなんていうのは、時代によっても地域によっても民族によっても変わりますから、まったく相対的で無責任なものでもあります。例えば、オオカミはテリトリー管理や群れの意識確認のためにハウリングをおこないますが、「ワンワン!」とは吠えません。しかし、人は番犬用に大きな声でよく「ワンワン!」と吠える犬の方が好ましかったので、そういう個体を選別して増やしました。ですから、何かあるとすぐ吠える犬は、当時の人にとって「高性能」なイヌだったわけですね。ところが、時代が変わって現代。特に日本の都市圏のような場所では、「無闇に吠える」というのは、むしろ困る要素・ダメ要素となっていて、声帯を手術で切り取ってしまうこともあります。その他にも、小型犬が流行ったり、シベリアンハスキーが流行ったり、人にはそういう流行なんかもありますね?
 つまり、人のイヌに対する要求・好み・感覚・流行などが古代から一定で変化がなければ、上に書いた「何千年もかけて云々」ということも言えるのでしょうが、実際は、その時代時代、地域地域の人の要求・ニーズがめまぐるしく変わるので、そういう言い方自体が論理的でないと思われます。
 ソリを引くためのソリ犬がいるのに、なんでわざわざオオカミの血なんかを入れるのか? これは血統とか犬種ということからすると、雑種をつくることにしかならないわけですが、実際は、オオカミの血を入れることで耐久性や力強さが増し、過酷な状況でソリを引くのに、より適した性能を確保できると現地・現場の人間が経験的に理解したからです。同様に、アイディタロッドとかユーコンクエストなどの賞金のかかったレースでは、よりスピードを得るために、グレイハウンドをかけることもあります。
 また、サーロースウルフドッグは、その作出者が、やはり過去に渡る人為的交配・改良(?)でイヌの能力低下を疑った人が、オオカミの血を入れてその低下を補わせるという考えから作られた犬種です。特に過酷で危険な状況でイヌに作業をさせる場合、嗅覚をはじめとする感覚器官が鋭敏で、頭脳が明晰かつ運動能力が高いオオカミの血というのは、自然に考えても捨てがたいものなのでしょう。そういう能力は、自然・野生の過酷な状況で培われたものなので、人の好み・要求で変えられてきたイヌより信頼性があるとも言えます。

 民俗学的にいうと、特に寒冷地の民族で、ヒトの心に最も作用する野生動物は、クマとオオカミでしょう。ヨーロッパでは、クマやオオカミを駆逐しながら牧草地を拡大し、それと同時に家畜被害なども生じてきたので、民話・童話に悪意をもってオオカミが描かれることも多かったと思います。日本には、明治以来その方向の文化が流れ込んでいますから、「オオカミ=危険・悪者・害獣」というイメージが擦り込まれている傾向が強いでしょうが、一方、イヌイットやインディアン、アイヌなど狩猟民族の中では、オオカミもクマも、むしろ偉大な神として奉られることが多く、それは農耕民族の日本でも同様でした。
 オオカミは、良くも悪くもヒトの心に影響力のある動物ですから、ニホンオオカミエゾオオカミと国内のオオカミを絶滅させたこの国の現代人が、オオカミに対して特別な憧れや感情を抱くのも、不自然なことではないのではないでしょうか。オオカミが日本に健全に現存してれば、狩猟鳥獣として狩りの対象ともなりつつ、自然に飼う人も現れたかも知れませんが、それは現代の日本では望むべくもなく、結果的に「狼犬」「ウルフドッグ」という形で具象化するしかなくなっています。(※ネットなどでは、野生動物は飼えないなどと、まことしやかに流布されるケースもありますが、原則的に、狩猟鳥獣は法的には一般人も飼育が可能です)

 以上のような考えで、私自身は狼犬・ウルフドッグに対して否定的な考えよりも、友好的・好意的考えでブリーディングをおこなっています。また、USKにおけるブリーディングラインが画一的にならないで幾つかに別れるのも、ここに述べたイヌとオオカミの事実と、ヒトの心の事実は色濃く影響しています。つまり、少なくとも一つは、オオカミにいかに近づけるかという観点でのブリーディング。もう一つは、オオカミらしい風貌・気質を残しながら、いかにヒトがイヌとして飼いやすい個体を作るかというブリーディングライン。それぞれを、ハイブリッドウルフ、ハイブリッドウルフドッグと呼ぶことにしました。

Q11:ウルフドッグと狼犬は同じですか?
A11:
 まず、一般的な話をします。一般的に、ウルフドッグが育ってきた北米などでは、オオカミとイヌの混血のことを、その血の比率関係なしにウルフドッグ、ウルフ・ハイブリッド、ウルフ-ドッグ・ハイブリッドなどと表現します。それを日本語で言うと、狼犬、オオカミの雑種、オオカミとイヌの混血とでもなりましょうか。この中で、日本で最も普及している呼び方が、ウルフドッグと狼犬だと思います。ですから、一般的にウルフドッグと狼犬は同じものです。
 さて、ところが、「狼犬」という概念の広さは「雑種犬」と同じくらい広く、そこからの踏み込んだ分類なしにいろいろを説明したり、議論したりすることが困難なわけです。そこでUSKでは、「狼犬」「ウルフドッグ」を一つ大分類として用いながら、その中で幾つか分類を試みています。分類の基準は、下述する単純な「オオカミ率」ではなく、外観や気質を含めたブリーディングの理念・方向性によってです。
 USKでは、ハイブリッドウルフと呼んでいるグループに対し、かなり遡った所にオオカミ犬の血が入っているらしいという言い方を、また、ウルフドッグ=狼犬に関しては、何代にも渡って狼犬同士の交配を繰り返している個体という言い方を、そして、狼犬とハイブリッドウルフを交配して生まれる子をハイブリッドウルフドッグという呼び方で概ね説明をしてきましたが、これに関してはもう少し明確さを必要としているようにも感じます。が、生物学の分類学同様、どういう基準に沿ってどこを境にどう分類するかというのは、悩ましい問題です。分類の曖昧さは、お許しください。ハイブリッドウルフ、ハイブリッドウルフドッグは、どちらも一般にいわれるhigh%の狼犬ということにはなります。


Q12.ハイブリッドウルフとハイブリッドウルフドッグとは? そしてオオカミ率は?
A12:
 狼犬というのは先述しましたように、基本的にはFCI認定を受けていない雑種扱いです。チェコやサーロスのように、固定化して気質・容姿の点で安定的に交配を続けることが、なかなか難しい分野と言えます。一方、通常の愛犬家同様、ブリーダーではない一般の方が、愛犬の子が欲しくて交配をおこなうことも、ままあります。それは、日本だけでなく、北米でもヨーロッパでも過去に渡りありました。そしてまた、北米のブラックウルフの例で、これまで純粋なオオカミだと誰もが思ってきた個体群が、かなり広範囲に狼犬であることもわかってきました。
 正直申しまして、例えばUSKのオス・ゼウスは何%オオカミの血が入っているのか?に関して、正確なところが科学的にはわかりません。というのも、上の論から狼犬(ウルフドッグ)の血統書というもの自体が存在せず、ゼウスを譲渡してくれた方の「言い値」のようなところがあるからです。「99%だよ」と言われれば、それを信じて譲渡してもらうしかないというのが現状です。先述の科学論文からすると、たとえ野生のオオカミを誰かが捕まえてきて「100%だよ」と言っても、それ自体が事実誤認の可能性も、現代では高いわけです。そういう現実を踏まえますと、北米その他で示されている狼犬のオオカミ率に関しては、確たる証拠がないようにさえ思えます。ゼウスから始まるラインにも同様に言えることで、私が仮に「95%ですよ」と言えば、買われる方はそれを信じて買うしかないわけです。それは、オオカミの入ったソリ犬や、現代の日本で流行っている雑種犬についても言えることで、この犬はチワワとプードルがそれぞれ何%ですと言われても、売る側の「言い値」でしかありません。
 最新の野生オオカミの研究、狼犬の持つ血統に関する曖昧さを踏まえ、私としては、いわゆるオオカミ率を前面に出してUSKの個体を云々することをやめようと考えています。現在では、ハイブリッドウルフに関しては「99%以上で、かなり高い率です」などとお答えし、ハイブリッドウルフドッグに関しても、「90%前後だと思います」と表現するようにしています。ブリーディングに関わった外産の個体のオオカミ率が仮に不確かだとすると、そういう言い方にしかならないからです。
 狼犬を扱ってきて一番多い質問は、じつは、「おたくの狼犬は何%ですか?」という質問です。それに対して一定の答えを必要とし、外れない答えはしてきましたが、そこにも曖昧さが介在します。狼犬に関しては、ショードッグとして確たるスタンダード・基準・規則のもとで評価され血統が作られるものでもありませんし、作られるべきものでのないかも知れませんので、USKに限らず、実際のブリーディングラインと仔犬・親犬を自分の目で見て、評価することを私はおすすめします。

補足)これは生物学のメンデルの法則に則しますが、例えば、オオカミ率90%の個体同士を何度かけても、生まれてくる仔犬は延々90%です。80%にオオカミをかけても、同じく90%です。ところが、オオカミらしい風貌・気質は、概して後者のほうが色濃く出ます。じつは、オオカミとイヌをかけた50%(F1)のほうが、前者の90%よりオオカミ的なことも多々起こりえます。このような事実から、必ずしもオオカミの血のパーセンテージが、オオカミらしさを示すとは言えません。逆に、オオカミ率が低ければ飼いやすい狼犬ということも、言えないと思います。やはり、気質・風貌などを吟味した、目標を持った選別的なブリーディングが必要不可欠だと私は考えています。

 上で触れたように、USKには、これまで概ね二つのブリーディングラインがあります。
 一つは、ハイブリッドウルフのラインで、これは、あくまでオオカミの風貌に近づけることを目標としておこなってきました。イヌ寄りの個体がでた特定の場合を除き、原則的にハイブリッドウルフとほかの狼犬・イヌとは交配を行っていません。このラインの個体は、オオカミに風貌が酷似しますが、気質的にもオオカミの気質・習性を比較的多く残しますので、必ずしもイヌ同様に飼うことは困難かも知れません。
 もう一つが、ハイブリッドウルフドッグのライン。こちらは、風貌にオオカミを十分残しつつ、サイズ・気質をできるだけ犬に近づけたラインで、恐らく、大型の牧羊犬ジャーマンシェパードや護羊犬ロットワイラー等を扱える人なら、確実に優秀な犬の家族・最良の相棒として暮らすことができますし、十分助言をいたしますので、犬をある程度解っている方なら、おすすめできます。ただ、少なくとも運動能力的には、オーストラリアンシェパードをドッグランで翻弄するほどでもあり、大きさが二回りは違うハイブリッドウルフの若犬を教育するのに、一瞬で引き倒し押さえ込む能力を有していますので、幼犬からのしっかりした関係づくり・しつけが重要なことは言うまでもありません。

狼犬の教育シーン:この方法もイヌ流と言うよりはオオカミ流でしょう。飼い主との関係がしっかりでき、しっかり自信をつけた先住犬であれば、決して感情的になることはなく、完全に制御された教育となります。一見荒っぽく、ドッグランなどでこれをやれば印象は悪いでしょうが、これがむしろ犬の本来の正しい姿で、抑止するのは逆効果となりかねません。こうして鍛えられた若犬は、教育をおこなった個体を最も慕うようになります。喧嘩なのか、イジメなのか、教育なのか、遊びなのか、コミュニケーションなのか、それを飼い主は理解する必要があります。
  現在模索している方向は、ハイブリッドウルフドッグのラインに、上述したイヌ寄りのハイブリッドウルフを交配し、気質をそのままに風貌をハイブリッドウルフに近づけられないかということです。しかし、それにはいろいろな障壁もあり、安定的に同様の個体をつくるところまでいくのには、一朝一夕には困難だとは思います。ハイブリッドウルフ、ハイブリッドウルフドッグに関しては、一定レベルで安定したブリーディングができるようになったと私自身は考えています。

捕捉)ただ、犬全体の躾や訓練の方法論で一定のマニュアル・定説めいたものがある一方、各犬種に対して(もちろん各個体に対しても)、それぞれ適切な教育方法があります。狼犬というジャンル自体が通常の犬ほど固定化しておらず、一種のフロンティアワークでもあるため、狼犬のブリーダーは、まず自らが狼犬と暮らしてその「関係づくりの方法」を模索し体得する必要があると私は考えています。狼犬のブリーディングというのは、上述してきたように期待される未知の可能性があるとともに、不用意な繁殖にはリスクがつきまとう可能性があります。ですから、単に親犬を揃えて交配させ増やせばいいというものでは、決してありません。そしてまた、ブリーディングがハードだとすれば、しつけ・訓練・関係づくりというのはソフトですが、狼犬を考えるうえでは特に、ハード面とソフト面をセットで考える必要があります。注意深い繁殖とともに、狼犬に特化した高度なしつけ・訓練のメソッドを確立して普及していくのも、狼犬ブリーダーの責任であると心得ます。
 
あとがき
 オオカミに近いハイブリッドウルフがハイブリッドウルフドッグより希少な狼犬とは言えるかも知れませんが、優れた狼犬とは、必ずしも言えないと私は思います。それは、オオカミにはオオカミの良さがあり、イヌにはイヌの良さがあるからで、先述したようにヒトが何を望むかによって価値が変わるからです。やはりクルマ同様、狼犬・ウルフドッグというのは、そういう幅のある存在であって、決して画一的に語られるべきものではないと思います。
 チェコとサーロースはFCIによっても一つの固定化された正式な犬種と見なされていますが、実際はそれに近いブリーディングラインが北米などにもあり、犬種と言ってもいいほど安定的に統一された個体が生まれてきています。その他に、まだ若干安定性に欠けるとしても、ブリーディングの方向として、一つの犬種的な存在になりつつある狼犬グループがあります。ですから、USKの場合も、名前はともかく個別に認識し、個別に扱うことが自然であると思います。ハイブリッドウルフ、ハイブリッドウルフドッグという呼び名が煩わしければ、あっさり形式的にTypeA、TypeBとしてもいいでしょうし、それにいま模索過程にあるラインをTypeCとして加え、3種類の狼犬の犬種がファジーながらUSKに存在する、と考えていただければ、最も素直な理解が可能かと思います。
 
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